《ささ》れず、罪も作らず、怨《うらみ》も受けずに、清く暮したいぢやありませんか。世の中は貨《かね》が有つたから、それで可い訳のものぢやありませんよ。まして非道をして拵《こしら》へた貨《かね》、そんな貨《かね》が何の頼《たのみ》になるものですか、必ず悪銭身に附かずです。無理に仕上げた身上《しんじよう》は一代持たずに滅びます。因果の報う例《ためし》は恐るべきものだから、一日でも早くこんな家業は廃《や》めるに越した事はありません。噫《ああ》、末が見えてゐるのに、情無い事ですなあ!」
積悪の応報|覿面《てきめん》の末を憂《うれ》ひて措《お》かざる直道が心の眼《まなこ》は、無残にも怨《うらみ》の刃《やいば》に劈《つんざか》れて、路上に横死《おうし》の恥を暴《さら》せる父が死顔の、犬に※[#「※」は「足+(榻−木)」、201−1]《け》られ、泥に塗《まみ》れて、古蓆《ふるむしろ》の陰に枕《まくら》せるを、怪くも歴々《まざまざ》と見て、恐くは我が至誠の鑑《かがみ》は父が未然を宛然《さながら》映し出《いだ》して謬《あやま》らざるにあらざるかと、事の目前《まのあたり》の真にあらざるを知りつつも、余りの
前へ
次へ
全708ページ中284ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング