《はるか》に可い」
 彼は涙を浮べて倆《うつむ》きぬ。母はその身も倶《とも》に責めらるる想して、或《あるひ》は可慚《はづかし》く、或は可忌《いまはし》く、この苦《くるし》き位置に在るに堪《た》へかねつつ、言解かん術《すべ》さへ無けれど、とにもかくにも言はで已《や》むべき折ならねば、辛《からう》じて打出《うちいだ》しつ。
「それはもうお前の言ふのは尤《もつとも》だけれど、お前と阿父《おとつ》さんとは全《まる》で気合《きあひ》が違ふのだから、万事|考量《かんがへ》が別々で、お前の言ふ事は阿父さんの肚《はら》には入らず、ね、又阿父さんの為る事はお前には不承知と謂《い》ふので、その中へ入つて私も困るわね。内も今では相応にお財《かね》も出来たのだから、かう云ふ家業は廃《や》めて、楽隠居になつて、お前に嫁を貰《もら》つて、孫の顔でも見たい、とさう思ふのだけれど、ああ云ふ気の阿父さんだから、そんなことを言出さうものなら、どんなに慍《おこ》られるだらうと、それが見え透いてゐるから、漫然《うつかり》した事は言はれずさ、お前の心を察して見れば可哀《かあい》さうではあり、さうかと云つて何方《どつち》をどうす
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