子は無いのですかね」
母は苦しげに鈍り鈍りて、
「さうねえ……別に何とも……私《わたし》には能《よ》く解らないね……」
「もう今に応報《むくい》は阿父さんにも……。阿母さん、間があんな目に遭《あ》つたのは、決して人事ぢやありませんよ」
「お前又阿父さんの前でそんな事をお言ひでないよ」
「言ひます! 今日は是非言はなければならない」
「それは言ふも可いけれど、従来《これまで》も随分お言ひだけれど、あの気性だから阿父さんは些《ちつと》もお聴きではないぢやないか。とても他《ひと》の言ふことなんぞは聴かない人なのだから、まあ、もう少しお前も目を瞑《つぶ》つてお在《いで》よ、よ」
「私《わたし》だつて親に向つて言ひたくはありません。大概の事なら目を瞑《つぶ》つてゐたいのだけれど、実にこればかりは目を瞑つてゐられないのですから。始終さう思ひます。私は外に何も苦労といふものは無い、唯これだけが苦労で、考出すと夜も寝られないのです。外にどんな苦労が在つても可いから、どうかこの苦労だけは没《なくな》して了《しま》ひたいと熟《つくづ》く思ふのです。噫《ああ》、こんな事なら未《ま》だ親子で乞食をした方が夐
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