》にか為《す》べき、この悲しさ、この口惜《くちを》しさ、この心細さにては止《や》まじと思ふに就けて、空可恐《そらおそろし》く胸の打騒ぐを禁《とど》め得ず。奉公大事ゆゑに怨《うらみ》を結びて、憂き目に遭《あ》ひし貫一は、夫の禍《わざはひ》を転じて身の仇《あだ》とせし可憫《あはれ》さを、日頃の手柄に増して浸々《しみじみ》難有《ありがた》く、かれを念《おも》ひ、これを思ひて、絶《したたか》に心弱くのみ成行くほどに、裏に愧《は》づること、懼《おそ》るること、疚《やまし》きことなどの常に抑《おさ》へたるが、忽《たちま》ち涌立《わきた》ち、跳出《をどりい》でて、その身を責むる痛苦に堪《た》へざるなりき。
 年久く飼《かは》るる老猫《ろうみよう》の凡《およ》そ子狗《こいぬ》ほどなるが、棄てたる雪の塊《かたまり》のやうに長火鉢《ながひばち》の猫板《ねこいた》の上に蹲《うづくま》りて、前足の隻落《かたしおと》して爪頭《つまさき》の灰に埋《うづも》るるをも知らず、※[#「※」は「鼻+句」、194−13]《いびき》をさへ掻《か》きて熟睡《うまい》したり。妻はその夜の騒擾《とりこみ》、次の日の気労《きづかれ》
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