》されざりしを本意無《ほいな》く思へるなるべし。又或者は彼の即死せざりしをも物足らず覚ゆるなるべし。下手人は不明なれども、察するに貸借上の遺趣より為《な》せる業《わざ》ならんとは、諸新聞の記《しる》せる如く、人も皆思ふところなりけり。
 直行は今朝病院へ見舞に行きて、妻は患者の容体を案じつつ留守せるなり。夫婦は心を協《あは》せて貫一の災難を悲《かなし》み、何程の費《つひえ》をも吝《をし》まず手宛《てあて》の限を加へて、少小《すこし》の瘢《きず》をも遺《のこ》さざらんと祈るなりき。
 股肱《ここう》と恃《たの》み、我子とも思へる貫一の遭難を、主人はなかなかその身に受けし闇打《やみうち》のやうに覚えて、無念の止み難く、かばかりの事に屈する鰐淵ならぬ令見《みせしめ》の為に、彼が入院中を目覚《めざまし》くも厚く賄《まかな》ひて、再び手出しもならざらんやう、陰《かげ》ながら卑怯者《ひきようもの》の息の根を遏《と》めんと、気も狂《くるはし》く力を竭《つく》せり。
 彼の妻は又、やがてはかかる不慮の事の夫の身にも出《い》で来《きた》るべきを思過《おもひすご》して、若《も》しさるべからんには如何《いか
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