を、怪しと女の面《おもて》を窺《うかが》へるなり。満枝は打背《うちそむ》けたる顔の半《なかば》をシオウルの端《はし》に包みて、握れる手をば弥《いよい》よ固く緊《し》めたり。
「さあ、もう放して下さい」
益《ますま》す緊めて袖《そで》の中へさへ曳入れんとすれば、
「貴方、馬鹿な事をしては可けません」
女は一語《ひとこと》も言はず、面も背けたるままに、その手は益《ますます》放たで男の行く方《かた》に歩めり。
「常談しちや可かんですよ。さあ、後《うしろ》から人が来る」
「宜《よろし》うございますよ」
独語《ひとりご》つやうに言ひて、満枝は弥《いよいよ》寄添ひつ。貫一は怺《こら》へかねて力任せに吽《うん》と曳けば、手は離れずして、女の体のみ倒れかかりぬ。
「あ、痛《いた》! そんな酷《ひど》い事をなさらなくても、其処《そこ》の角まで参ればお放し申しますから、もう少しの間どうぞ……」
「好い加減になさい」
と暴《あらら》かに引払《ひつぱら》ひて、寄らんとする隙《ひま》もあらせず摩脱《すりぬ》くるより足を疾《はや》めて津守坂《つのかみざか》を驀直《ましぐら》に下りたり。
やうやう昇れる利
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