鎌《とかま》の月は乱雲《らんうん》を芟《か》りて、※[#「※」は「しんにょう+向」、190−9]《はるけ》き梢《こずゑ》の頂《いただき》に姑《しばら》く掛れり。一抹《いちまつ》の闇《やみ》を透きて士官学校の森と、その中なる兵営と、その隣なる町の片割《かたわれ》とは、懶《ものう》く寝覚めたるやうに覚束《おぼつか》なき形を顕《あらは》しぬ。坂上なる巡査派出所の燈《ともし》は空《むなし》く血紅《けつこう》の光を射て、下り行きし男の影も、取残されし女の姿も終《つひ》に見えず。

     (八) の 二

 片側町《かたかはまち》なる坂町《さかまち》は軒並《のきなみ》に鎖《とざ》して、何処《いづこ》に隙洩《すきも》る火影《ひかげ》も見えず、旧砲兵営の外柵《がいさく》に生茂《おひしげ》る群松《むらまつ》は颯々《さつさつ》の響を作《な》して、その下道《したみち》の小暗《をぐら》き空に五位鷺《ごいさぎ》の魂切《たまき》る声消えて、夜色愁ふるが如く、正《まさ》に十一時に垂《なんな》んとす。
 忽《たちま》ち兵営の門前に方《あた》りて人の叫ぶが聞えぬ、間貫一は二人の曲者《くせもの》に囲れたるなり。一人《
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