《むさぼ》れるなり。知らず彼がその夕《ゆふべ》にして瞑《めい》せんとする快心の事とは何ぞ。彼は尋常|復讐《ふくしゆう》の小術を成して、宮に富山に鴫沢に人身的攻撃を加へて快を取らんとにはあらず、今|少《すこし》く事の大きく男らしくあらんをば企図《きと》せるなり。然れども、痛苦の劇《はげし》く、懐旧の恨に堪《た》へざる折々、彼は熱き涙を握りて祈るが如く嘆《かこ》ちぬ。
「※[#「※」は「口+矣」、181−10]《ああ》、こんな思を為るくらゐなら、いつそ潔く死んだ方が夐《はるか》に勝《まし》だ。死んでさへ了へば万慮|空《むなし》くこの苦艱《くげん》は無いのだ。それを命が惜くもないのに死にもせず……死ぬのは易《やす》いが、死ぬことの出来んのは、どう考へても余り無念で、この無念をこのままに胸に納めて死ぬことは出来んのだ。貨《かね》が有つたら何が面白いのだ。人に言はせたら、今|俺《おれ》の貯《たくは》へた貨《かね》は、高が一人の女の宮に換へる価はあると謂《い》ふだらう。俺には無い! 第一|貨《かね》などを持つてゐるやうな気持さへ為《せ》んぢやないか。失望した身にはその望を取復《とりかへ》すほどの宝
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