は無いのだ。※[#「※」は「口+矣」、181−15]《ああ》、その宝は到底取復されん。宮が今罪を詑《わ》びて夫婦になりたいと泣き付いて来たとしても、一旦心を変じて、身まで涜《けが》された宮は、決して旧《もと》の宮ではなければ、もう間《はざま》の宝ではない。間の宝は五年|前《ぜん》の宮だ。その宮は宮の自身さへ取復す事は出来んのだ。返す返す恋《こひし》いのは宮だ。かうしてゐる間《ま》も宮の事は忘れかねる、けれど、それは富山の妻になつてゐる今の宮ではない、噫《ああ》、鴫沢の宮! 五年|前《ぜん》の宮が恋い。俺が百万円を積んだところで、昔の宮は獲《え》られんのだ! 思へば貨《かね》もつまらん。少《すくな》いながらも今の貨《かね》が熱海へ追つて行つた時の鞄《かばん》の中に在つたなら……ええ!!」
頭《かしら》も打割るるやうに覚えて、この以上を想ふ能《あた》はざる貫一は、ここに到りて自失し了るを常とす。かかる折よ、熱海の浜に泣倒れし鴫沢の娘と、田鶴見《たずみ》の底に逍遙《しようよう》せし富山が妻との姿は、双々《そうそう》貫一が身辺を彷徨《ほうこう》して去らざるなり。彼はこの痛苦の堪ふべからざるに
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