勁敵《けいてき》に遇《あ》ひ、悪徒に罹《かか》りて、或は弄《もてあそ》ばれ、或は欺かれ、或は脅《おびやか》され勢《いきほひ》毒を以つて制し、暴を以つて易《か》ふるの已《や》むを得ざるより、一《いつ》はその道の習に薫染して、彼は益《ますま》す懼《おそ》れず貪《むさぼ》るに至れるなり。同時に例の不断の痛苦は彼を撻《むちう》つやうに募ることありて、心も消々《きえきえ》に悩まさるる毎に、齷※[#「※」は「齒+昔」、181−1]《あくさく》利を趁《お》ふ力も失せて、彼はなかなか死の安きを懐《おも》はざるにあらず。唯その一旦にして易《やす》く、又今の空《むなし》き死を遂《と》げ了《をは》らんをば、いと効為《かひな》しと思返して、よし遠くとも心に期するところは、なでう一度《ひとたび》前《さき》の失望と恨とを霽《はら》し得て、胸裡《きようり》の涼きこと、氷を砕いて明鏡を磨《と》ぐが如く為ざらん、その夕《ゆふべ》ぞ我は正《まさ》に死ぬべきと私《ひそか》に慰むるなりき。
貫一は一《いつ》はかの痛苦を忘るる手段として、一《いつ》はその妄執《もうしゆう》を散ずべき快心の事を買はんの目的をもて、かくは高利を貪
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