に如何《いか》なりけん。彼はここに於いて曩《さき》に半箇の骨肉の親むべきなく、一点の愛情の温むるに会はざりし凄寥《せいりよう》を感ずるのみにて止《とどま》らず、失望を添へ、恨を累《かさ》ねて、かの塊然たる野末《のずゑ》の石は、霜置く上に凩《こがらし》の吹誘ひて、皮肉を穿《うが》ち来《きた》る人生の酸味の到頭骨に徹する一種の痛苦を悩みて已《や》まざるなりき。実に彼の宮を奪れしは、その甞《かつ》て与へられし物を取去られし上に、与へられざりし物をも併《あは》せて取去られしなり。
彼は或《あるひ》はその恨を抛《なげう》つべし、なんぞその失望をも忘れざらん。されども彼は永くその痛苦を去らしむる能はざるべし、一旦《ひとたび》太《いた》くその心を傷《きずつ》けられたるかの痛苦は、永くその心の存在と倶《とも》に存在すべければなり。その業務として行はざるべからざる残忍刻薄を自ら強《し》ふる痛苦は、能《よ》く彼の痛苦と相剋《あひこく》して、その間《かん》聊《いささ》か思《おもひ》を遣るべき余地を窃《ぬす》み得るに慣れて、彼は漸《やうや》く忍ぶべからざるを忍びて為し、恥づべきをも恥ぢずして行ひけるほどに、
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