中形《ちゆうがた》模様ある毛織のシォールを絡《まと》ひ、学生は焦茶の外套《オバコオト》を着たるが、身を窄《すぼ》めて吹来る凩《こがらし》を遣過《やりすご》しつつ、遅れし宮の辿着《たどりつ》くを待ちて言出せり。
「宮《みい》さん、あの金剛石《ダイアモンド》の指環を穿《は》めてゐた奴はどうだい、可厭《いや》に気取つた奴ぢやないか」
「さうねえ、だけれど衆《みんな》があの人を目の敵《かたき》にして乱暴するので気の毒だつたわ。隣合つてゐたもんだから私まで酷《ひど》い目に遭《あは》されてよ」
「うむ、彼奴《あいつ》が高慢な顔をしてゐるからさ。実は僕も横腹《よこつぱら》を二つばかり突いて遣つた」
「まあ、酷いのね」
「ああ云ふ奴は男の目から見ると反吐《へど》が出るやうだけれど、女にはどうだらうね、あんなのが女の気に入るのぢやないか」
「私は可厭《いや》だわ」
「芬々《ぷんぷん》と香水の匂《にほひ》がして、金剛石《ダイアモンド》の金の指環を穿めて、殿様然たる服装《なり》をして、好《い》いに違無《ちがひな》いさ」
学生は嘲《あざ》むが如く笑へり。
「私は可厭よ」
「可厭なものが組になるものか」
「組
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