りしならんと想へり。宮は会の終まで居たり。彼|若《もし》疾《と》く還《かへ》りたらんには、恐《おそら》く踏留るは三分の一弱に過ぎざりけんを、と我物顔に富山は主と語合へり。
彼に心を寄せし輩《やから》は皆彼が夜深《よふけ》の帰途《かへり》の程を気遣《きづか》ひて、我|願《ねがは》くは何処《いづく》までも送らんと、絶《したた》か念《おも》ひに念ひけれど、彼等の深切《しんせつ》は無用にも、宮の帰る時一人の男附添ひたり。その人は高等中学の制服を着たる二十四五の学生なり。金剛石《ダイアモンド》に亜《つ》いでは彼の挙動の目指《めざさ》れしは、座中に宮と懇意に見えたるは彼一人なりければなり。この一事の外《ほか》は人目を牽《ひ》くべき点も無く、彼は多く語らず、又は躁《さわ》がず、始終|慎《つつまし》くしてゐたり。終までこの両個《ふたり》の同伴《つれ》なりとは露顕せざりき。さあらんには余所々々《よそよそ》しさに過ぎたればなり。彼等の打連れて門《かど》を出《い》づるを見て、始めて失望せしもの寡《すくな》からず。
宮は鳩羽鼠《はとばねずみ》の頭巾《ずきん》を被《かぶ》りて、濃浅黄地《こいあさぎぢ》に白く
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