知るらんを、後《のち》に招きて聴くべしとて、夫婦は頻《しきり》に觴《さかづき》を侑《すす》めけり。
 富山唯継の今宵ここに来《きた》りしは、年賀にあらず、骨牌遊《かるたあそび》にあらず、娘の多く聚《あつま》れるを機として、嫁選《よめえらみ》せんとてなり。彼は一昨年《をととし》の冬|英吉利《イギリス》より帰朝するや否や、八方に手分《てわけ》して嫁を求めけれども、器量|望《のぞみ》の太甚《はなはだ》しければ、二十余件の縁談皆意に称《かな》はで、今日が日までもなほその事に齷齪《あくさく》して已《や》まざるなり。当時取急ぎて普請せし芝《しば》の新宅は、未《いま》だ人の住着かざるに、はや日に黒《くろ》み、或所は雨に朽ちて、薄暗き一間に留守居の老夫婦の額を鳩《あつ》めては、寂しげに彼等の昔を語るのみ。

     第 二 章

 骨牌《かるた》の会は十二時に※[#「※」は「しんにょう+台」、21−4]《およ》びて終りぬ。十時頃より一人起ち、二人起ちて、見る間に人数《にんず》の三分の一強を失ひけれども、猶《なほ》飽かで残れるものは景気好く勝負を続けたり。富山の姿を隠したりと知らざる者は、彼敗走して帰
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