証書といふのはどうして知つたのだ」
「それは知らん。何でも可いから一つ二つ奪つて置けば、奴を退治《たいじ》る材料になると考へたから、早業をして置いたのだが、思ひきやこれが覘《ねら》ふ敵《かたき》の証書ならんとは、全く天の善に与《くみ》するところだ」
風「余り善でもない。さうしてあれを此方《こつち》へ取つて了へば、三百円は蹈《ふ》めるのかね」
蒲「大蹈《おほふ》め! 少し悪党になれば蹈める」
風「然し、公正証書であつて見ると……」
蒲「あつても差支無《さしつかへな》い。それは公証人役場には証書の原本が備付けてあるから、いざと云ふ日にはそれが物を言ふけれど、この正本《せいほん》さへ引揚げてあれば、間貫一いくら地動波動《じたばた》したつて『河童《かつぱ》の皿に水の乾《かわ》いた』同然、かうなれば無証拠だから、矢でも鉄砲でも持つて来いだ。然し、全然《まるまる》蹈むのもさすがに不便《ふびん》との思召《おぼしめし》を以つて、そこは何とか又色を着けて遣らうさ。まあまあ君達は安心してゐたまへ。蒲田弁理公使が宜《よろし》く樽爼《そんそ》の間《かん》に折衝して、遊佐家を泰山《たいざん》の安きに置いて見せる
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