書を取らんとする風早が手は、筋《きん》の活動《はたらき》を失へるやうにて幾度《いくたび》も捉《とら》へ得ざるなりき。
「まあ!」と叫びし妻は忽《たちま》ち胸塞《むねふたが》りて、その後を言ふ能はざるなり。蒲田は手の舞ひ、膝の蹈《ふ》むところを知らず、
「占めたぞ! 占めたぞ!! 難有《ありがた》い!!!」
 証書は風早の手に移りて、遊佐とその妻と彼と六《むつ》の目を以《も》て子細にこれを点検して、その夢ならざるを明《あきら》めたり。
「君はどうしたのだ」
 風早の面《おもて》はかつ呆《あき》れ、かつ喜び、かつ懼《をそ》るるに似たり。やがて証書は遊佐夫婦の手に渡りて、打拡げたる二人が膝の上に、これぞ比翼読なるべき。更に麦酒《ビイル》の満《まん》を引きし蒲田は「血は大刀に滴《したた》りて拭《ぬぐ》ふに遑《いとま》あらざる」意気を昂《あ》げて、
「何と凄《すご》からう。奴を捩伏《ねぢふ》せてゐる中に脚《あし》で掻寄《かきよ》せて袂《たもと》へ忍ばせたのだ――早業《はやわざ》さね」
「やはり嘉納流にあるのかい」
「常談言つちや可かん。然しこれも嘉納流の教外別伝《きようげべつでん》さ」
「遊佐の
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