何ならんと主《あるじ》の妻も鼻の下を延べて窺《うかが》へり。
風「何だか僕も始めてお目に掛るのだ」
 彼は先づその一通を取りて披見《ひらきみ》るに、鰐淵直行に対する債務者は聞きも知らざる百円の公正証書謄本なり。
 二人は蒲田が案外の物持てるに驚《おどろか》されて、各《おのおの》息を凝《こら》して※[#「※」は「目+登」、176−17]《みは》れる眼《まなこ》を動さず。蒲田も無言の間《うち》に他の一通を取りて披《ひら》けば、妻はいよいよ近《ちかづ》きて差覗《さしのぞ》きつ。四箇《よつ》の頭顱《かしら》はラムプの周辺《めぐり》に麩《ふ》に寄る池の鯉《こひ》の如く犇《ひし》と聚《あつま》れり。
「これは三百円の証書だな」
 一枚二枚と繰り行けば、債務者の中に鼻の前《さき》なる遊佐良橘の名をも署《しる》したり、蒲田は弾機仕掛《ばねじかけ》のやうに躍《をど》り上りて、
「占めた! これだこれだ」
 驚喜の余り身を支へ得ざる遊佐の片手は鶤《しやも》の鉢《はち》の中にすつぱと落入り、乗出す膝頭《ひざがしら》に銚子《ちようし》を薙倒《なぎたふ》して、
「僕のかい、僕のかい」
「どう、どう、どう」と証
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