。嗚呼《ああ》、実に近来の一大快事だ!」
 人々の呆《あき》るるには目も掛けず、蒲田は証書を推戴《おしいただ》き推戴きて、
「さあ、遊佐君の為に万歳を唱へやう。奥さん、貴方《あなた》が音頭《おんど》をお取んなさいましよ――いいえ、本当に」
 小心なる遊佐はこの非常手段を極悪大罪と心安からず覚ゆるなれど、蒲田が一切を引受けて見事に埒《らち》開けんといふに励されて、さては一生の怨敵《おんてき》退散の賀《いはひ》と、各《おのおの》漫《そぞろ》に前《すす》む膝を聚《あつ》めて、長夜《ちようや》の宴を催さんとぞ犇《ひしめ》いたる。

     第 七 章

 茫々《ぼうぼう》たる世間に放れて、蚤《はや》く骨肉の親むべき無く、況《いはん》や愛情の温《あたた》むるに会はざりし貫一が身は、一鳥も過ぎざる枯野の広きに塊然《かいぜん》として横《よこた》はる石の如きものなるべし。彼が鴫沢《しぎさわ》の家に在りける日宮を恋ひて、その優き声と、柔《やはらか》き手と、温き心とを得たりし彼の満足は、何等の楽《たのしみ》をも以外に求むる事を忘れしめき。彼はこの恋人をもて妻とし、生命として慊《あきた》らず、母の一部分と
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