取出《とりいだ》せり。
「銭は有りはせんよ」
「僅少《わづか》で宜《よろし》いので、手数料として」
「又手数料か! ぢや一円も出さう」
「日当、俥代なども入つてゐるのですから五円ばかり」
「五円なんと云ふ金円《かね》は有りはせん」
「それぢや、どうも」
 彼は遽《にはか》に躊躇《ちゆうちよ》して、手形用紙を惜めるやうに拈《ひね》るなりけり。
「ええ、では三円ばかり出さう」
 折から紙門《ふすま》を開きけるを弗《ふ》と貫一の※[#「※」は「目+是」、160−6]《みむか》ふる目前《めさき》に、二人の紳士は徐々《しづしづ》と入来《いりきた》りぬ。案内も無くかかる内証の席に立入りて、彼等の各《おのおの》心得顔なるは、必ず子細あるべしと思ひつつ、彼は少《すこし》く座を動《ゆる》ぎて容《かたち》を改めたり。紳士は上下《かみしも》に分れて二人が間に坐りければ、貫一は敬ひて礼を作《な》せり。
蒲「どうも曩《さき》から見たやうだ、見たやうだと思つてゐたら、間君ぢやないか」
風「余り様子が変つたから別人かと思つた。久く会ひませんな」
 貫一は愕然《がくぜん》として二人の面《おもて》を眺めたりしが、忽《た
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