ちま》ち身の熱するを覚えて、その誰なるやを憶出《おもひいだ》せるなり。
「これはお珍《めづらし》い。何方《どなた》かと思ひましたら、蒲田君に風早君。久くお目に掛りませんでしたが、いつもお変無く」
蒲「その後はどうですか、何か当時は変つた商売をお始めですな――儲《まうか》りませう」
 貫一は打笑《うちゑ》みて、
「儲りもしませんが、間違つてこんな事になつて了ひました」
 彼の毫《いささか》も愧《は》づる色無きを見て、二人は心陰《こころひそか》に呆《あき》れぬ。侮《あなど》りし風早もかくては与《くみ》し易《やす》からず思へるなるべし。
蒲「儲けづくであるから何でも可いけれど、然《しか》し思切つた事を始めましたね。君の性質で能《よ》くこの家業が出来ると思つて感服しましたよ」
「真人間に出来る業《わざ》ぢやありませんな」
 これ実に真人間にあらざる人の言《ことば》なり。二人はこの破廉耻《はれんち》の老面皮《ろうめんぴ》を憎しと思へり。
蒲「酷《ひど》いね、それぢや君は真人間でないやうだ」
「私《わたし》のやうな者が憖《なまじ》ひ人間の道を守つてをつたら、とてもこの世の中は渡れんと悟りましたから
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