一つ行かうよ。手拭《てぬぐひ》を貸してくれ給へな」
遊「ま、待ち給へ、今一処に行くから。時に弱つて了つた」
 実《げ》に言ふが如く彼は心穏《こころおだや》かならず見ゆるなり。
風「まあ、坐りたまへ。どうしたのかい」
遊「坐つてもをられんのだ、下に高利貸《アイス》が来てをるのだよ」
蒲「那物《えてもの》が来たのか」
遊「先から座敷で帰来《かへり》を待つてをつたのだ。困つたね!」
 彼は立ちながら頭《かしら》を抑へて緩《ゆる》く柱に倚《よ》れり。
蒲「何とか言つて逐返《おつかへ》して了ひ給へ」
遊「なかなか逐返らんのだよ。陰忍《ひねくね》した皮肉な奴でね、那奴《あいつ》に捉《つかま》つたら耐《たま》らん」
蒲「二三円も叩《たた》き付けて遣るさ」
遊「もうそれも度々《たびたび》なのでね、他《むかふ》は書替を為《さ》せやうと掛つてゐるのだから、延期料を握つたのぢや今日は帰らん」
 風早は聴ゐるだに心苦くて、
「蒲田、君一つ談判してやり給へ、ええ、何とか君の弁を揮《ふる》つて」
「これは外の談判と違つて唯|金銭《かね》づくなのだから、素手《すで》で飛込むのぢや弁の奮《ふる》ひやうが無いよ。それで
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