いよいよ困《こう》じたるなり。
「唯今《ただいま》些《ちよい》と塞《ふさが》つてをりますから」
「ぢや、君、二階へどうぞ」
 勝手を知れる客なれば※[#「※」は「にんべん+從」、146−8]々《づかづか》と長四畳を通りて行く跡に、妻は小声になりて、
「鰐淵《わにぶち》から参つてをりますよ」
「来たか!」
「是非お目に懸りたいと言つて、何と言つても帰りませんから、座敷へ上げて置きました、些《ちよい》とお会ひなすつて、早く還《かへ》してお了《しま》ひなさいましな」
「松茸《まつだけ》はどうした」
 妻はこの暢気《のんき》なる問に驚かされぬ。
「貴方、まあ松茸なんぞよりは早く……」
「待てよ。それからこの間の黒麦酒《くろビイル》な……」
「麦酒も松茸もございますから早くあれを還してお了ひなさいましよ。私《わたし》は那奴《あいつ》が居ると思ふと不快《いや》な心持で」
 遊佐も差当りて当惑の眉《まゆ》を顰《ひそ》めつ。二階にては例の玉戯《ビリアアド》の争《あらそひ》なるべし、さも気楽に高笑《たかわらひ》するを妻はいと心憎く。
 少間《しばし》ありて遊佐は二階に昇り来《きた》れり。
蒲「浴《ゆ》に
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