照して二三の改むべきを注意せし後、子爵は種板《たねいた》を挿入《さしい》るれば、唯継は心得てその邇《ちかき》を避けたり。
空を眺むる宮が目の中《うち》には焚《も》ゆらんやうに一種の表情力|充満《みちみ》ちて、物憂さの支へかねたる姿もわざとならず。色ある衣《きぬ》は唐松《からまつ》の翠《みどり》の下蔭《したかげ》に章《あや》を成して、秋高き清遠の空はその後に舗《し》き、四脚《よつあし》の雪見燈籠を小楯《こだて》に裾の辺《あたり》は寒咲躑躅《かんざきつつじ》の茂《しげみ》に隠れて、近きに二羽の鵞《が》の汀《みぎは》に※[#「※」は「求/食」、142−5]《あさ》るなど、寧《むし》ろ画にこそ写さまほしきを、子爵は心に喜びつつ写真機の前に進み出で、今や鏡面《レンズ》を開かんと構ふる時、貴婦人の頬杖は忽《たちま》ち頽《くづ》れて、その身は燈籠の笠の上に折重なりて岸破《がば》と伏しぬ。
第 五 章
遊佐良橘《ゆさりようきつ》は郷里に在りし日も、出京の遊学中も、頗《すこぶ》る謹直を以《も》て聞えしに、却《かへ》りて、日本周航会社に出勤せる今日《こんにち》、三百円の高利の為に艱《なや
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