うすあかり》に曝《さら》さるる夜の街《ちまた》は殆《ほとん》ど氷らんとすなり。
人この裏《うち》に立ちて寥々冥々《りようりようめいめい》たる四望の間に、争《いかで》か那《な》の世間あり、社会あり、都あり、町あることを想得べき、九重《きゆうちよう》の天、八際《はつさい》の地、始めて混沌《こんとん》の境《さかひ》を出《い》でたりといへども、万物|未《いま》だ尽《ことごと》く化生《かせい》せず、風は試《こころみ》に吹き、星は新に輝ける一大荒原の、何等の旨意も、秩序も、趣味も無くて、唯濫《ただみだり》に※[#「※」は「しんにょう+貌」、8−4]《ひろ》く横《よこた》はれるに過ぎざる哉《かな》。日の中《うち》は宛然《さながら》沸くが如く楽み、謳《うた》ひ、酔《ゑ》ひ、戯《たはむ》れ、歓《よろこ》び、笑ひ、語り、興ぜし人々よ、彼等は儚《はかな》くも夏果てし孑孑《ぼうふり》の形を歛《をさ》めて、今将《いまはた》何処《いづく》に如何《いか》にして在るかを疑はざらんとするも難《かた》からずや。多時《しばらく》静なりし後《のち》、遙《はるか》に拍子木の音は聞えぬ。その響の消ゆる頃|忽《たちま》ち一点の燈
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