して、咬《か》むことの過ぎし故《ゆゑ》ぞと知りぬ。実《げ》に顔の色は躬《みづから》も凄《すご》しと見るまでに変れるを、庭の内をば幾周《いくめぐり》して我はこの色を隠さんと為《す》らんと、彼は心陰《こころひそか》に己《おのれ》を嘲《あざけ》るなりき。
忽《たちま》ち女の声して築山の彼方《あなた》より、
「静緒さん、静緒さん!」
彼は走り行き、手を鳴して応《こた》へけるが、やがて木隠《こがくれ》に語《かたら》ふ気勢《けはひ》して、返り来ると斉《ひとし》く賓《まらうど》の前に会釈して、
「先程からお座敷ではお待兼でゐらつしやいますさうで御座いますから、直《すぐ》に彼方《あちら》へお出《いで》あそばしますやうに」
「おや、さうでしたか。随分先から長い間道草を食べましたから」
道を転じて静緒は雲帯橋《うんたいきよう》の在る方《かた》へ導けり。橋に出づれば正面の書院を望むべく、はや所狭《ところせま》きまで盃盤《はいばん》を陳《つら》ねたるも見えて、夫は席に着きゐたり。
此方《こなた》の姿を見るより子爵は縁先に出でて麾《さしまね》きつつ、
「そこをお渡りになつて、此方《こちら》に燈籠《とうろ
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