ど》も無かりければ、偶《たまた》ま唐楪葉《からゆづりは》のいと近きが鏡面《レンズ》に入《い》り来《き》て一面に蔓《はびこ》りぬ。粒々の実も珍く、何の木かとそのまま子細に視たりしに、葉蔭を透きて人顔の見ゆるを、心とも無く眺めけるに、自《おのづ》から得忘れぬ面影に肖《に》たるところあり。
貴婦人は差し向けたる手を緊《しか》と据ゑて、目を拭《ぬぐ》ふ間も忙《せはし》く、なほ心を留めて望みけるに、枝葉《えだは》の遮《さへぎ》りてとかくに思ふままならず。漸《やうや》くその顔の明《あきらか》に見ゆる隙《ひま》を求めけるが、別に相対《さしむか》へる人ありて、髪は黒けれども真額《まつかう》の瑩々《てらてら》禿《は》げたるは、先に挨拶《あいさつ》に出《い》でし家扶の畔柳にて、今一人なるその人こそ、眉濃《まゆこ》く、外眦《まなじり》の昂《あが》れる三十前後の男なりけれ。得忘れぬ面影に肖《に》たりとは未《おろか》や、得忘れぬその面影なりと、ゆくりなくも認めたる貴婦人の鏡《グラス》持てる手は兢々《わなわな》と打顫《うちふる》ひぬ。
行く水に数画《かずか》くよりも儚《はかな》き恋しさと可懐《なつか》しさとの
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