入りつつ貴婦人は笑《ゑ》ましげに聴ゐたり。
「私は急いで推付けましたのでございます」
「まあ!」
「なに、ちつとも聞えは致しませんのでございますから、さやう申上げますと、推付けやうが悪いと仰せられまして、御自身に遊ばして御覧なさるのでございますよ。何遍致して見ましたか知れませんのでございますけれど、何も聞えは致しませんので。さやう致しますると、お前では可かんと仰せられまして、御供を致してをりました御家来から、御親類方も御在《おいで》でゐらつしやいましたが、皆為《みんななす》つて御覧遊ばしました」
貴婦人は怺《こら》へかねて失笑せり。
「あら、本当なのでございますよ。それで、未だ推付けやうが悪い、もつと早く早くと仰せられるものでございますから、御殿に居ります速水《はやみ》と申す者は余《あんま》り急ぎましたので、耳の此処《ここ》を酷《ひど》く打《ぶ》ちまして、血を出したのでございます」
彼の歓《よろこ》べるを見るより静緒は椅子を持来《もちきた》りて薦《すす》めし後、さて語り続くるやう。
「それで誰《たれ》にも聞えないのでございます。さやう致しますると、殿様は御自身に遊ばして御覧で、なる
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