くん》に出でたりとて屡《しばし》ば父に聴さるる「五綵服《ごさいふく》を盛《さかん》にするも、以つて身の華《か》と為すに足らず、貞順道《ていじゆんみち》に率《したが》へば、乃《すなは》ち以つて婦徳を進むべし」の本文《ほんもん》に合《かな》ひて、かくてこそ始めて色に矜《ほこ》らず、その徳に爽《そむ》かずとも謂ふべきなれ。愛《め》でたき人にも遇《あ》へるかなと絶《したたか》に思入りぬ。
 三階に着くより静緒は西北《にしきた》の窓に寄り行きて、効々《かひがひ》しく緑色の帷《とばり》を絞り硝子戸《ガラスど》を繰揚《くりあ》げて、
「どうぞ此方《こちら》へお出《いで》あそばしまして。ここが一番|見晴《みはらし》が宜《よろし》いのでございます」
「まあ、好《よ》い景色ですことね! 富士が好く晴れて。おや、大相|木犀《もくせい》が匂《にほ》ひますね、お邸内《やしきうち》に在りますの?」
 貴婦人はこの秋霽《しゆうせい》の朗《ほがらか》に濶《ひろ》くして心往くばかりなるに、夢など見るらん面色《おももち》して佇《たたず》めり。窓を争ひて射入《さしい》る日影は斜《ななめ》にその姿を照して、襟留《えりどめ》な
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