本当に旦那の身を思つて心配を為るのですよ、敵手《あひて》が悪いからねえ」
思ひ直せども貫一が腑《ふ》には落ちざるなりけり。
「さうして、それは何頃《いつごろ》からの事でございます」
「ついこの頃ですよ、何でも」
「然《しか》し、何《な》にしろ御心配でせう」
「それに就いて是非お頼があるんですがね、折を見て私も篤《とつく》り言はうと思ふのです。就いてはこれといふ証拠が無くちや口が出ませんから、何とか其処《そこ》を突止めたいのだけれど、私の体《からだ》ぢや戸外《おもて》の様子が全然《さつぱり》解らないのですものね」
「御尤《ごもつとも》」
「で、お前さんと見立ててお頼があるんです。どうか内々様子を探つて見て下さいな。お前さんが寝てお在《いで》でないと、実は今日早速お頼があるのだけれど、折が悪いのね」
行けよと命ぜられたるとなんぞ択ばん、これ有る哉《かな》、紅茶と栗と、と貫一はその余《あまり》に安く売られたるが独《ひと》り可笑《をかし》かりき。
「いえ、一向|差支《さしつかへ》ございません。どういふ事ですか」
「さう? 余《あんま》りお気の毒ね」
彼の赤き顔の色は耀《かがや》くばかりに
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