懽《よろこ》びぬ。
「御遠慮無く有仰《おつしや》つて下さい」
「さう? 本当に可いのですか」
 お峯は彼が然諾《ぜんだく》の爽《さはやか》なるに遇《あ》ひて、紅茶と栗とのこれに酬ゆるの薄儀に過ぎたるを、今更に可愧《はづかし》く覚ゆるなり。
「それではね、本当に御苦労で済まないけれど、氷川まで行つて見て来て下されば、それで可いのですよ。畔柳さんへ行つて、旦那が行つたか、行かないか、若《も》し行つたのなら、何頃《いつごろ》行つて何頃帰つたか、なあに、十《とを》に九《ここのつ》まではきつと行きはしませんから。その様子だけ解れば、それで可いのです。それだけ知れれば、それで探偵が一つ出来たのですから」
「では行つて参りませう」
 彼は起ちて寝衣帯《ねまきおび》を解かんとすれば、
「お待ちなさいよ、今|俥《くるま》を呼びに遣《や》るから」
 かく言捨ててお峯は忙《せはし》く階子《はしご》を下行《おりゆ》けり。
 迹《あと》に貫一は繰返し繰返しこの事の真偽を案じ煩《わづら》ひけるが、服を改めて居間を出でんとしつつ、
「女房に振られて、学士に成損《なりそこな》つて、後が高利貸の手代で、お上さんの秘密探
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