の――どうもそれに違無いの!」
 彼ははや栗など剥かずなりぬ。貫一は揺笑《ゆすりわらひ》して、
「そんな馬鹿な事が、貴方《あなた》……」
「外の人ならいざ知らず、附いてゐる女房《にようぼ》の私が……それはもう間違無しよ!」
 貫一は熟《じつ》と思ひ入りて、
「旦那はお幾歳《いくつ》でしたな」
「五十一、もう爺《ぢぢい》ですわね」
 彼は又思案して、
「何ぞ証拠が有りますか」
「証拠と云つて、別に寄越した文を見た訳でもないのですけれど、そんな念を推さなくたつて、もう違無いの!!」
 息巻くお峯の前に彼は面《おもて》を俯《ふ》して言はず、静に思廻《おもひめぐ》らすなるべし。お峯は心着きて栗を剥き始めつ。その一つを終ふるまで言《ことば》を継がざりしが、さて徐《おもむろ》に、
「それはもう男の働とか云ふのだから、妾《めかけ》も楽《たのしみ》も可うございます。これが芸者だとか、囲者《かこひもの》だとか云ふのなら、私は何も言ひはしませんけれど第一は、赤樫《あかがし》さんといふ者があるのぢやありませんか、ねえ。その上にあの女だ! 凡《ただ》の代物《しろもの》ぢやありはしませんわね。それだから私は実に
前へ 次へ
全708ページ中166ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング