くげん》も固《もと》より期《ご》したるを、なかなかかかる寛《ゆたか》なる信用と、かかる温《あたたか》き憐愍《れんみん》とを被《かうむ》らんは、羝羊《ていよう》の乳《ち》を得んとよりも彼は望まざりしなり。憂の中の喜なる哉《かな》、彼はこの喜を如何《いか》に喜びけるか。今は呵責をも苦艱《くげん》をも敢《あへ》て悪《にく》まざるべき覚悟の貫一は、この信用の終《つひ》には慾の為に剥《は》がれ、この憐愍《れんみん》も利の為に吝《をし》まるる時の目前なるべきを固く信じたり。
(三) の 二
毒は毒を以て制せらる。鰐淵《わにぶち》が債務者中に高利借の名にしおふ某《ぼう》党の有志家某あり。彼は三年来|生殺《なまごろし》の関係にて、元利五百余円の責《せめ》を負ひながら、奸智《かんち》を弄《ろう》し、雄弁を揮《ふる》ひ、大胆不敵に構《かま》へて出没自在の計《はかりごと》を出《いだ》し、鰐淵が老巧の術といへども得て施すところ無かりければ、同業者のこれに係《かか》りては、逆捩《さかねぢ》を吃《く》ひて血反吐《ちへど》を噴《はか》されし者|尠《すくな》からざるを、鰐淵は弥《いよい》よ憎しと思へど
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