、彼に対しては銕桿《かなてこ》も折れぬべきに持余しつるを、克《かな》はぬまでも棄措《すてお》くは口惜《くちをし》ければ、せめては令見《みせしめ》の為にも折々|釘《くぎ》を刺して、再び那奴《しやつ》の翅《はがい》を展《の》べしめざらんに如《し》かずと、昨日《きのふ》は貫一の曠《ぬか》らず厳談せよと代理を命ぜられてその家に向ひしなり。
 彼は散々に飜弄《ほんろう》せられけるを、劣らじと罵《ののし》りて、前後四時間ばかりその座を起ちも遣《や》らで壮《さかん》に言争ひしが、病者に等き青二才と侮《あなど》りし貫一の、陰忍《しんねり》強く立向ひて屈する気色《けしき》あらざるより、有合ふ仕込杖《しこみつゑ》を抜放し、おのれ還《かへ》らずば生けては還さじと、二尺|余《あまり》の白刃を危《あやふ》く突付けて脅《おびやか》せしを、その鼻頭《はなさき》に待《あしら》ひて愈《いよい》よ動かざりける折柄《をりから》、来合せつる壮士三名の乱拳に囲れて門外に突放され、少しは傷など受けて帰来《かへりき》にけるが、これが為に彼の感じ易《やす》き神経は甚《はなはだし》く激動して夜もすがら眠を成さず、今朝は心地の転《うた》
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