に存すれども、そのままに年経にければ、改めて穿鑿《せんさく》もせられで、やがては、暖簾《のれん》を分けて屹《きつ》としたる後見《うしろみ》は為てくれんと、鰐淵は常に疎《おろそか》ならず彼が身を念《おも》ひぬ。直行は今年五十を一つ越えて、妻なるお峯《みね》は四十六なり。夫は心|猛《たけ》く、人の憂《うれひ》を見ること、犬の嚏《くさめ》の如く、唯貪《ただむさぼ》りて※[#「※」は「厭/食」、112−4]《あ》くを知らざるに引易へて、気立《きだて》優しとまでにはあらねど、鬼の女房ながらも尋常の人の心は有《も》てるなり。彼も貫一の偏屈なれども律義《りちぎ》に、愛すべきところとては無けれど、憎ましきところとては猶更《なほさら》にあらぬを愛して、何くれと心着けては、彼の為に計りて善かれと祈るなりける。
 いと幸《さち》ありける貫一が身の上|哉《かな》。彼は世を恨むる余《あまり》その執念の駆《か》るままに、人の生ける肉を啖《くら》ひ、以つて聊《いささ》か逆境に暴《さら》されたりし枯膓《こちよう》を癒《いや》さんが為に、三悪道に捨身の大願を発起《ほつき》せる心中には、百の呵責《かしやく》も、千の苦艱《
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