、手代を勤むる傍《かたはら》若干《そくばく》の我が小額をも運転して、自《おのづか》ら営む便《たより》もあれば、今|憖《なまじ》ひにここを出でて痩臂《やせひぢ》を張らんよりは、然《しか》るべき時節の到来を待つには如《し》かじと分別せるなり。彼は啻《ただ》に手代として能《よ》く働き、顧問として能く慮《おもんぱか》るのみをもて、鰐淵が信用を得たるにあらず、彼の齢《よはひ》を以てして、色を近けず、酒に親まず、浪費せず、遊惰せず、勤むべきは必ず勤め、為すべきは必ず為して、己《おのれ》を衒《てら》はず、他《ひと》を貶《おとし》めず、恭謹にしてしかも気節に乏からざるなど、世に難有《ありがた》き若者なり、と鰐淵は寧《むし》ろ心陰《こころひそか》に彼を畏《おそ》れたり。
主《あるじ》は彼の為人《ひととなり》を知りし後《のち》、如此《かくのごと》き人の如何《いか》にして高利貸などや志せると疑ひしなり、貫一は己《おのれ》の履歴を詐《いつは》りて、如何なる失望の極身をこれに墜《おと》せしかを告げざるなりき。されども彼が高等中学の学生たりしことは後に顕《あらは》れにき。他の一事の秘に至りては、今もなほ主が疑問
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