に掛けたる半身像は、彼女《かのをんな》が十九の春の色を苦《ねんごろ》に手写《しゆしや》して、嘗《かつ》て貽《おく》りしものなりけり。
殿はこの失望の極|放肆《ほうし》遊惰の裏《うち》に聊《いささ》か懐《おもひ》を遣《や》り、一具の写真機に千金を擲《なげう》ちて、これに嬉戯すること少児《しように》の如く、身をも家をも外《ほか》にして、遊ぶと費すとに余念は無かりけれど、家令に畔柳元衛《くろやなぎもとえ》ありて、その人|迂《う》ならず、善く財を理し、事を計るに由りて、かかる疎放の殿を戴《いただ》ける田鶴見家も、幸《さいはひ》に些《さ》の破綻《はたん》を生ずる無きを得てけり。
彼は貨殖の一端として密《ひそか》に高利の貸元を営みけるなり。千、二千、三千、五千、乃至《ないし》一万の巨額をも容易に支出する大資本主たるを以《も》て、高利貸の大口を引受くる輩《はい》のここに便《たよ》らんとせざるはあらず。されども慧《さかし》き畔柳は事の密なるを策の上と為《な》して叨《みだり》に利の為に誘はれず、始よりその藩士なる鰐淵|直行《ただゆき》の一手に貸出すのみにて、他は皆彼の名義を用ゐて、直接の取引を為さざ
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