れば、同業者は彼の那辺《いづれ》にか金穴《きんけつ》あるを疑はざれども、その果して誰なるやを知る者絶えてあらざるなりき。
鰐淵《わにぶち》の名が同業間に聞えて、威権をさをさ四天王の随一たるべき勢あるは、この資本主の後楯《うしろだて》ありて、運転神助の如きに由るのみ。彼は元田鶴見の藩士にて、身柄は謂《い》ふにも足らぬ足軽頭《あしがるがしら》に過ぎざりしが、才覚ある者なりければ、廃藩の後《のち》出《い》でて小役人を勤め、転じて商社に事《つか》へ、一時|或《あるひ》は地所家屋の売買を周旋し、万年青《おもと》を手掛け、米屋町《こめやまち》に出入《しゆつにゆう》し、何《いづ》れにしても世渡《よわたり》の茶を濁さずといふこと無かりしかど、皆思はしからで巡査を志願せしに、上官の首尾好く、竟《つひ》には警部にまで取立てられしを、中ごろにして金《きん》これ権《けん》と感ずるところありて、奉職中|蓄得《たくはへえ》たりし三百余円を元に高利貸を始め、世間の未《いま》だこの種の悪手段に慣れざるに乗じて、或《ある》は欺き、或は嚇《おど》し、或は賺《すか》し、或は虐《しひた》げ、纔《わづか》に法網を潜《くぐ》り
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