、帰りて母君に請《こ》ふことありしに、いと太《いた》う驚かれて、こは由々《ゆゆ》しき家の大事ぞや。夷狄《いてき》は**よりも賤《いやし》むべきに、畏《かしこ》くも我が田鶴見の家をばなでう禽獣《きんじゆう》の檻《おり》と為すべき。あな、可疎《うとま》しの吾子《あこ》が心やと、涙と共に掻口説《かきくど》きて、悲《かなし》び歎きの余は病にさへ伏したまへりしかば、殿も所為無《せんな》くて、心苦う思ひつつも、猶《なほ》行末をこそ頼めと文の便《たより》を度々《たびたび》に慰めて、彼方《あなた》も在るにあられぬ三年《みとせ》の月日を、憂《う》きは死ななんと味気《あぢき》なく過せしに、一昨年《をととし》の秋物思ふ積りやありけん、心自から弱りて、存《ながら》へかねし身の苦悩《くるしみ》を、御神《みかみ》の恵《めぐみ》に助けられて、導かれし天国の杳《よう》として原《たづ》ぬべからざるを、いとど可懐《なつか》しの殿の胸は破れぬべく、ほとほと知覚の半をも失ひて、世と絶つの念|益《ますま》す深く、今は無尽の富も世襲の貴きも何にかはせんと、唯懐《ただおもひ》を亡《な》き人に寄せて、形見こそ仇《あだ》ならず書斎の壁
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