ぜん》として、絶えて貴族的容儀を修めざれど、自《おのづか》らなる七万石の品格は、面白《おもてしろ》う眉秀《まゆひい》でて、鼻高く、眼爽《まなこさはやか》に、形《かたち》の清《きよら》に揚《あが》れるは、皎《こう》として玉樹《ぎよくじゆ》の風前に臨めるとも謂《い》ふべくや、御代々《ごだいだい》御美男にわたらせらるるとは常に藩士の誇るところなり。
かかれば良縁の空《むなし》からざること、蝶《ちよう》を捉《とら》へんとする蜘蛛《くも》の糸より繁《しげ》しといへども、反顧《かへりみ》だに為《せ》ずして、例の飄然忍びては酔《ゑひ》の紛れの逸早《いつはや》き風流《みやび》に慰み、内には無妻主義を主張して、人の諌《いさめ》などふつに用ゐざるなりけり。さるは、かの地に留学の日、陸軍中佐なる人の娘と相愛《あひあい》して、末の契も堅く、月下の小舟《をぶね》に比翼の櫂《かひ》を操《あやつ》り、スプレイの流を指《ゆびさ》して、この水の終《つひ》に涸《か》るる日はあらんとも、我が恋の※[#「※」は「(諂−言)+炎」、109−7]《ほのほ》の消ゆる時あらせじ、と互の誓詞《せいし》に詐《いつはり》はあらざりけるを
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