男子たる者が、金銭《かね》の為に見易《みか》へられたかと思へば、その無念といふものは、私は一《い》……一生忘れられんです。
軽薄でなければ詐《いつはり》、詐でなければ利慾、愛相《あいそ》の尽きた世の中です。それほど可厭《いや》な世の中なら、何為《なぜ》一思《ひとおもひ》に死んで了はんか、と或は御不審かも知れん。私は死にたいにも、その無念が障《さはり》になつて死切れんのです。売られた人達を苦めるやうなそんな復讐《ふくしゆう》などは為たくはありません、唯自分だけで可いから、一旦受けた恨! それだけは屹《きつ》と霽《はら》さなければ措《お》かん精神。片時でもその恨を忘れることの出来ん胸中といふものは、我ながらさう思ひますが、全《まる》で発狂してゐるやうですな。それで、高利貸のやうな残刻の甚《はなはだし》い、殆《ほとん》ど人を殺す程の度胸を要する事を毎日扱つて、さうして感情を暴《あら》してゐなければとても堪へられんので、発狂者には適当の商売です。そこで、金銭《かね》ゆゑに売られもすれば、辱《はづかし》められもした、金銭の無いのも謂はば無念の一つです。その金銭が有つたら何とでも恨が霽されやうか
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