「私もこんな可耻《はづかし》い事を、一旦申上げたからには、このままでは済されません」
貫一は緩《ゆるや》かに頷《うなづ》けり。
「女の口からかう云ふ事を言出しますのは能々《よくよく》の事でございますから、それに対するだけの理由を有仰《おつしや》つて、どうぞ十分に私が得心の参るやうにお話し下さいましな、私座興でこんな事を申したのではございませんから」
「御尤《ごもつとも》です。私のやうな者でもそんなに言つて下さると思へば、決して嬉くない事はありません。ですから、その御深切に対して裹《つつ》まず自分の考量《かんがへ》をお話し申します。けれど、私は御承知の偏屈者でありますから、衆《ひと》とは大きに考量が違つてをります。
第一、私は一生|妻《さい》といふ者は決《け》して持たん覚悟なので。御承知か知りませんが、元、私は書生でありました。それが中途から学問を罷《や》めて、この商売を始めたのは、放蕩《ほうとう》で遣損《やりそこな》つたのでもなければ、敢《あへ》て食窮《くひつ》めた訳でも有りませんので。書生が可厭《いや》さに商売を遣らうと云ふのなら、未だ外《ほか》に幾多《いくら》も好い商売は有りま
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