ちゆう》の百和香《ひやつかこう》を燻《くゆ》らせぬ。
「間さん、貴方どうぞお楽に」
「はい、これが勝手で」
「まあ、そんな事を有仰《おつしや》らずに、よう、どうぞ」
「内に居つても私はこの通なのですから」
「嘘《うそ》を有仰《おつしや》いまし」
かくても貫一は膝《ひざ》を崩《くづ》さで、巻莨入《まきたばこいれ》を取出《とりいだ》せしが、生憎《あやにく》一本の莨もあらざりければ、手を鳴さんとするを、満枝は先《さきん》じて、
「お間に合せにこれを召上りましな」
麻蝦夷《あさえぞ》の御主殿持《ごしゆでんもち》とともに薦《すす》むる筒の端《はし》より焼金《やききん》の吸口は仄《ほのか》に耀《かがや》けり。歯は黄金《きん》、帯留は黄金《きん》、指環は黄金《きん》、腕環は黄金《きん》、時計は黄金《きん》、今又|煙管《きせる》は黄金《きん》にあらずや。黄金《きん》なる哉《かな》、金《きん》、金《きん》! 知る可《べ》し、その心も金《きん》! と貫一は独《ひと》り可笑《をか》しさに堪《た》へざりき。
「いや、私は日本莨は一向|可《い》かんので」
言ひも訖《をは》らぬ顔を満枝は熟《じつ》と視《み》
前へ
次へ
全708ページ中132ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング