隣れる金歯とを露《あらは》して片笑《かたゑ》みつつ、
「まあ、何為《なぜ》でも宜うございますから、それでは鶏肉《とり》に致しませうか」
「それも可《い》いでせう」
三十間堀《さんじつけんぼり》に出でて、二町ばかり来たる角《かど》を西に折れて、唯《と》有る露地口に清らなる門構《かどがまへ》して、光沢消硝子《つやけしガラス》の軒燈籠《のきとうろう》に鳥と標《しる》したる方《かた》に、人目にはさぞ解《わけ》あるらしう二人は連立ちて入りぬ。いと奥まりて、在りとも覚えぬ辺《あたり》に六畳の隠座敷の板道伝《わたりづたひ》に離れたる一間に案内されしも宜《うべ》なり。
懼《おそ》れたるにもあらず、困《こう》じたるにもあらねど、又全くさにあらざるにもあらざらん気色《けしき》にて貫一の容《かたち》さへ可慎《つつま》しげに黙して控へたるは、かかる所にこの人と共にとは思懸《おもひか》けざる為体《ていたらく》を、さすがに胸の安からぬなるべし。通し物は逸早《いちはや》く満枝が好きに計ひて、少頃《しばし》は言《ことば》無き二人が中に置れたる莨盆《たばこぼん》は子細らしう一|※[#「※」は「火+主」、94−2]《
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