ただ》ならず強き光は燈火《ともしび》に照添《てりそ》ひて、殆《ほとん》ど正《ただし》く見る能《あた》はざるまでに眼《まなこ》を射られたるに呆《あき》れ惑へり。天上の最も明《あきらか》なる星は我手《わがて》に在りと言はまほしげに、紳士は彼等の未《いま》だ曾《かつ》て見ざりし大《おほき》さの金剛石《ダイアモンド》を飾れる黄金《きん》の指環を穿《は》めたるなり。
お俊は骨牌《かるた》の席に復《かへ》ると※[#「※」は「にんべん+牟」、13−15]《ひとし》く、密《ひそか》に隣の娘の膝《ひざ》を衝《つ》きて口早に※[#「※」は「口+耳」、13−15]《ささや》きぬ。彼は忙々《いそがはし》く顔を擡《もた》げて紳士の方《かた》を見たりしが、その人よりはその指に耀《かがや》く物の異常なるに駭《おどろ》かされたる体《てい》にて、
「まあ、あの指環は! 一寸《ちよいと》、金剛石《ダイアモンド》?」
「さうよ」
「大きいのねえ」
「三百円だつて」
お俊の説明を聞きて彼は漫《そぞろ》に身毛《みのけ》の弥立《よだ》つを覚えつつ、
「まあ! 好いのねえ」
※[#「※」は「魚+單」、14−6]《ごまめ》の目
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