に結《ゆ》ひて、肉色縮緬《にくいろちりめん》の羽織に撮《つま》みたるほどの肩揚したり。顔を赧《あか》めつつ紳士の前に跪《ひざまづ》きて、慇懃《いんぎん》に頭《かしら》を低《さぐ》れば、彼は纔《わづか》に小腰を屈《かが》めしのみ。
「どうぞ此方《こちら》へ」
娘は案内せんと待構へけれど、紳士はさして好ましからぬやうに頷《うなづ》けり。母は歪《ゆが》める口を怪しげに動して、
「あの、見事な、まあ、御年玉を御戴きだよ」
お俊は再び頭《かしら》を低《さ》げぬ。紳士は笑《ゑみ》を含みて目礼せり。
「さあ、まあ、いらつしやいまし」
主《あるじ》の勧むる傍《そば》より、妻はお俊を促して、お俊は紳士を案内《あない》して、客間の床柱の前なる火鉢《ひばち》在る方《かた》に伴《つ》れぬ。妻は其処《そこ》まで介添《かいぞへ》に附きたり。二人は家内《かない》の紳士を遇《あつか》ふことの極《きは》めて鄭重《ていちよう》なるを訝《いぶか》りて、彼の行くより坐るまで一挙一動も見脱《みのが》さざりけり。その行く時彼の姿はあたかも左の半面を見せて、団欒《まどゐ》の間を過ぎたりしが、無名指《むめいし》に輝ける物の凡《
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