今ではあの女が独《ひとり》で腕を揮《ふる》つて益す盛に遣《や》つてゐる。これ則《すなは》ち『美人《びじ》クリイム』の名ある所以《ゆゑん》さ。
年紀《とし》かい、二十五だと聞いたが、さう、漸《やうや》う二三とよりは見えんね。あれで可愛《かはゆ》い細い声をして物柔《ものやはらか》に、口数《くちかず》が寡《すくな》くつて巧い言《こと》をいふこと、恐るべきものだよ。銀貨を見て何処の国の勲章だらうなどと言ひさうな、誠に上品な様子をしてゐて、書替《かきかへ》だの、手形に願ふのと、急所を衝《つ》く手際《てぎは》の婉曲《えんきよく》に巧妙な具合と来たら、実に魔薬でも用ゐて人の心を痿《なや》すかと思ふばかりだ。僕も三度ほど痿《なや》されたが、柔能く剛を制すで、高利貸《アイス》には美人が妙! 那彼《あいつ》に一国を預ければ輙《すなは》ちクレオパトラだね。那彼には滅されるよ」
風早は最も興を覚えたる気色《けしき》にて、
「では、今はその禿顱《はげ》は中風《ちゆうふう》で寐《ね》たきりなのだね、一昨年《をととし》から? それでは何か虫があるだらう。有る、有る、それくらゐの女で神妙にしてゐるものか、無いと見
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