れたまへ」
面白く発《はや》りし一座も忽《たちま》ち白《しら》けて、頻《しきり》に燻《くゆ》らす巻莨《まきたばこ》の煙の、急駛《きゆうし》せる車の逆風《むかひかぜ》に扇《あふ》らるるが、飛雲の如く窓を逸《のが》れて六郷川《ろくごうがわ》を掠《かす》むあるのみ。
佐分利は幾数回《あまたたび》頷《うなづ》きて、
「いやさう言れると慄然《ぞつ》とするよ、実は嚮《さつき》停車場《ステエション》で例の『美人《びじ》クリイム』(こは美人の高利貸を戯称せるなり)を見掛けたのだ。あの声で蜥蜴啖《とかげくら》ふかと思ふね、毎《いつ》見ても美いには驚嘆する。全《まる》で淑女《レディ》の扮装《いでたち》だ。就中《なかんづく》今日は冶《めか》してをつたが、何処《どこ》か旨《うま》い口でもあると見える。那奴《あいつ》に搾《しぼ》られちや克《かな》はん、あれが本当の真綿で首だらう」
「見たかつたね、それは。夙《かね》て御高名は聞及んでゐる」
と大島紬《おほしまつむぎ》の猶《なほ》続けんとするを遮《さへぎ》りて、甘糟の言へる。
「おお、宝井が退学を吃《く》つたのも、其奴《そいつ》が債権者の重《おも》なる者だと
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