、二人の幸福を保つには十分だよ。今でさへも随分二人は幸福ではないか。男の僕でさへ、お前が在れば富山の財産などを可羨《うらやまし》いとは更に思はんのに、宮さん、お前はどうしたのだ! 僕を忘れたのかい、僕を可愛《かはゆ》くは思はんのかい」
 彼は危《あやふ》きを拯《すく》はんとする如く犇《ひし》と宮に取着きて匂滴《にほひこぼ》るる頸元《えりもと》に沸《に》ゆる涙を濺《そそ》ぎつつ、蘆《あし》の枯葉の風に揉《もま》るるやうに身を顫《ふるは》せり。宮も離れじと抱緊《いだきし》めて諸共《もろとも》に顫ひつつ、貫一が臂《ひぢ》を咬《か》みて咽泣《むせびなき》に泣けり。
「嗚呼《ああ》、私はどうしたら可からう! 若し私が彼方《あつち》へ嫁《い》つたら、貫一さんはどうするの、それを聞かして下さいな」
 木を裂く如く貫一は宮を突放して、
「それぢや断然《いよいよ》お前は嫁く気だね! これまでに僕が言つても聴いてくれんのだね。ちええ、膓《はらわた》の腐つた女! 姦婦《かんぷ》!!」
 その声とともに貫一は脚《あし》を挙げて宮の弱腰をはたと※[#「※」は「足+易」、76−13]《け》たり。地響して横様《よこ
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