いくぢ》の無い男でもない。若し間違つて、その十粒か二十粒の工面が出来なかつたら、僕は自分は食はんでも、決してお前に不自由は為せん。宮さん、僕はこれ……これ程までにお前の事を思つてゐる!」
 貫一は雫《しづく》する涙を払ひて、
「お前が富山へ嫁《ゆ》く、それは立派な生活をして、栄耀《えよう》も出来やうし、楽も出来やう、けれどもあれだけの財産は決して息子の嫁の為に費さうとて作られた財産ではない、と云ふ事をお前考へなければならんよ。愛情の無い夫婦の間に、立派な生活が何だ! 栄耀が何だ! 世間には、馬車に乗つて心配さうな青い顔をして、夜会へ招《よば》れて行く人もあれば、自分の妻子《つまこ》を車に載せて、それを自分が挽《ひ》いて花見に出掛ける車夫もある。富山へ嫁《ゆ》けば、家内も多ければ人出入《ひとでいり》も、劇《はげ》しし、従つて気兼も苦労も一通の事ぢやなからう。その中へ入つて、気を傷《いた》めながら愛してもをらん夫を持つて、それでお前は何を楽《たのしみ》に生きてゐるのだ。さうして勤めてゐれば、末にはあの財産がお前の物になるのかい、富山の奥様と云へば立派かも知れんけれど、食ふところは今の雀の十
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