づはあらあらかしこ。

   五月二十五日
おろかなる女|※[#表現不可、466−10]《より》[#行末より2字上げ]
     恋《こひし》き恋き
       生別《いきわかれ》の御方様《おんかたさま》
            まゐる

     第 二 章

 隣に養へる薔薇《ばら》の香《か》の烈《はげし》く薫《くん》じて、颯《さ》と座に入《い》る風の、この読尽《よみつく》されし長き文《ふみ》の上に落つると見れば、紙は冉々《せんせん》と舞延びて貫一の身を※[#「※」は「(螢−虫)/糸」、467−1]《めぐ》り、猶《なほ》も跳《をど》らんとするを、彼は徐《しづか》に敷据ゑて、その膝《ひざ》に慵《ものう》げなる面杖《つらづゑ》※[#「※」は「てへん+主」、467−2]《つ》きたり。憎き女の文なんど見るも穢《けがらは》しと、前《さき》には皆|焚棄《やきす》てたりし貫一の、如何《いか》にしてこたびばかりは終《つひ》に打拆《うちひら》きけん、彼はその手にせし始に、又は読去りし後に、自らその故《ゆゑ》を譲《せ》めて、自ら知らざるを愧《は》づるなりき。
 彼はやがて屈《かが》めし身を起ししが、又|直《ただ》ちに重きに堪《た》へざらんやうの頭《かしら》を支へて、机に倚《よ》れり。
 緑|濃《こまや》かに生茂《おひしげ》れる庭の木々の軽々《ほのか》なる燥気《いきれ》と、近き辺《あたり》に有りと有る花の薫《かをり》とを打雑《うちま》ぜたる夏の初の大気は、太《はなは》だ慢《ゆる》く動きて、その間に旁午《ぼうご》する玄鳥《つばくら》の声|朗《ほがらか》に、幾度《いくたび》か返しては遂《つひ》に往きける跡の垣穂《かきほ》の、さらぬだに燃ゆるばかりなる満開の石榴《ざくろ》に四時過の西日の夥《おびただし》く輝けるを、彼は煩《わづらは》しと目を移して更に梧桐《ごどう》の涼《すずし》き広葉を眺めたり。
 文の主《ぬし》はかかれと祈るばかりに、命を捧げて神仏《かみほとけ》をも驚かししと書けるにあらずや。貫一は又、自ら何の故《ゆゑ》とも知らで、独《ひと》りこれのみ披《ひら》くべくもあらぬ者を披き見たるにあらずや。彼を絡《まと》へる文は猶解けで、巌《いはほ》に浪《なみ》の瀉《そそ》ぐが如く懸《かか》れり。
 そのままに専《ひた》と思入るのみなりし貫一も、漸《やうや》く悩《なやまし》く覚えて身動《みじ
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